« 南日本新聞に上原先生の記事 | メイン | 伊集院中PTA来校 »

2015年7月 1日 (水)

欧州便り 「懐の深いセーヌ川」

本日付の南日本新聞朝刊に「欧州便り」を寄稿させていただきました。来年の3月まで,今回を含め計4回掲載予定です。

文章と合わせて2つの画像が掲載されています。1枚は私が描いたパステル画で,セーヌ川にかかるトゥールネル橋の上で描いた夕方のパリの風景です。

Photo

もう1枚は,セーヌ川のほとりに集う人々を撮影した写真です。夕方になると,セーヌ川はじめ公園の池やサン・マルタン運河といったパリ市内の水辺にたくさんの人々が集まって思い思いの時間を過ごしています。

Photo_2

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

フランスへの留学が決まり,パリにアパートを探す中で2,3件の候補が挙がった。現在住んでいるサン・ルイ島のアパートに決めたのは,ルーブル美術館やポンピドゥーセンターに近いということもあったが,セーヌ川沿いにあるという理由からだった。「川のほとりに住む」ということは,私にとって昔からのあこがれだった。

 川のほとりに住みたいと思ったきっかけは特にないのだが,昔から川を眺めそのほとりを歩くのが好きだった。川の流れはどこかつかみどころがなく,それでいて見飽きることがない。そんなところが気に入っている。

 セーヌ川は,パリの真ん中を東から西へ貫いている。パリは,セーヌ川の中州「シテ島」と「サン・ルイ島」を中心に発展してきた。ノートルダム大聖堂やパリ警視庁,市立病院といった重要な施設があるのも納得できる。このふたつの島は観光地として人気のスポットでもある。

 また,セーヌ川は交通の要所としての性格もあって,1日に何隻もの船が行き交う。その多くは観光用の遊覧船だが,それ以外にも警察のモーターボート,資材やゴミの運搬船といった具合に多彩だ。  

 私は夕方によくセーヌ川を歩く。夕方といっても今の時期は午後9時を過ぎても日中のように明るい。スケッチブックを抱えながらの日もあれば,あてもなくとぼとぼ歩くこともある。水面に映る傾いた日の光が,何ともいえない輝きと哀愁を醸し出す。こういう時は決まって日本に残してきた家族のことを考える。

 私と同じようにセーヌ川には多くの人が集う。その顔は皆,夕日に赤く染まっている。若い恋人たち,釣り糸を垂らす人,何を話しているのか携帯電話片手に泣いている女の子。私もその中にまぎれたたずむ。いまだに自分が本当にパリに住んでいるのか分からない,ふわふわした感覚を覚えるのだった。

 私の思い出の地にはいつも川があった。故郷・市来の大里川は,小学校の帰りに友達といつも寄り道をした遊び場だった。大学時代を過ごした金沢の犀川は,古都に抱かれながら白山連峰の雪解け水をたたえる川だった。そして,フランス激動の歴史を見つめてきたセーヌ川は,パリジャンやパリジェンヌ,旅人,さすらいの民も全てを受け入れる懐の広い川に感じられる。

 セーヌ川は,果たして私のことも受け入れてくれるだろうか。その答えが留学の期限となる来年3月までに出てくれたらいいのだが。

    (第69回南日本美術展第20回吉井賞受賞者)

カテゴリ